京大短歌18号

京大短歌18号は一昨日届きました。
おめでとうございます。
お疲れさまでした。


各人一首選


支配するこんなことしてどうするのわからないのは仕様ですから(杉山天心)
不自然なペプシを飲んで思うのよ、ローソンと海、空は違うと(谷川嘉浩)
陸上の格子模様を丁寧に進むまひるま 桂馬の歩幅で(廣野翔一)
楠の葉のすべてが冬の陽に透けてどうしてこうもつらくないのか(小林朗人)
売ることも買うこともできる快楽と思いつつはぷはぷと牛乳を注ぐ(大森静佳)
散りながら集ふことさへできるからすごい、心つていふ俗物は。(薮内亮輔)
お姉ちゃんみたいなひとがまたひとり人妻になる 縁石をゆく(笠木拓)
病院の看板ばかりのホームから静かにさって行かないでくれ(野栄悠樹)
ムニエルに添えるサラダを整えて調理は信仰のはじまりでしょうか(吉岡太朗)
モテ期とは持て余すこと晩秋のプチトマトがたわわに実る日々(三瀦忠典)
ランスロットは王妃と恋に落ちたけど、加部君は花屋継いだのかしら(川島信敬)
くしゃみひとつテイッシュ一枚ワンクリック昼休みはこう過ごすものです(大森琴世)
もう櫂は離れてゆくか埒もなきことを思いて仰ぐ半月(永田淳)
冬の海寄せ来るに児を掲げをマーテロ塔かたく鎖されてゐて(黒瀬珂瀾)
チューブあまた取りつけられていし夜の重みのなかに笑いたる川(中津昌子)
犬の毛に禿あるごときゴルフ場岬にありて黄ばみたる芝(島田幸典)
冬眠中の蛇がすこんと出てきますこの廃駅の冬の自販機(林和清)
受遺者は、遺言者の■■後、いつでも、遺贈の放棄ができる。(中島裕介)
めろめろと人形は燃えなだれゆく彼岸此岸をゆききしながら(安森敏隆)


以下雑感

  • 本書の中心は大辻(ゲスト)・薮内・大森による鼎談
    • 色々興味深いわけだが、ここでは批判的にいきましょう。
    • 大辻による「癌」の部分。これは誤りである。被曝を可能な限り避ける、というのは科学的にも完全に妥当な考えであって、「傲慢」などではもちろんない。「運命」でもない。こういう発言ができるのは無知ゆえだし、愚かですらある。現在は癌しかデータがないので議論できないわけだが、免疫系へのダメージやQOLについても被害を本来は想定すべきなのである。また、胎児や子どもへの影響がまるで考慮されていない。さらには差別の問題もある。このような基本的なことを抑えていない状態では、大辻には当然震災詠など歌えないだろう。残念である。
    • 島田修三の「落とし前をつける」のエピソードは面白い。正直、私は彼の歌を良いと思ったことがないのだが、発想が根本的に違うのだ、ということが理解できた。
    • 新人賞で「未完成さを褒めるのはやめてほしい」という意見は完全同意。
    • 会員作品批評は丁寧で面白く、たいへん良いと思う。
  • 評論二本は薮内評論のほうが良い。ただ、もう「合わせ鏡」は昔の作業仮説っていうことで、あまり考慮せずともいいと思う。


以上でございます。