歌集『羽音』(朝井さとる)

羽音―朝井さとる歌集 (塔21世紀叢書)

羽音―朝井さとる歌集 (塔21世紀叢書)


歌集『羽音』(朝井さとる)は先々月いただきました。
ありがとうございました。


十首選


さそはれてかんたんに車に乗りし日の彼岸花彼岸花彼岸花国道
強きものは夏の線路の照り返し先頭車両に立ちて見てをり
信仰ををりをり変へて来し母にわたしができることは仕送り
ピコなんてそんなのゼロぢやねえかよと熱物理屋が分析屋に言ふ
手のひらのあはき地形も日暮れたリアドレス変更通知ありがたう
好きなのは窓辺にものを置かぬ家君子陽陽良夜深更(さけのむばかをほっといてねる)
たそがれて夜の試合に変はるなリフイールドとおなじ広さの夜空
名古屋とはかういふ町と梅雨寒を黙せり五十ならぶ火葬炉
映さるるメタミドホスはキシダ化学分析用試薬小瓶なるべし
五号球をまだ使はないこの子らがひとりも死なぬ夏を生きてゐる


以下雑感

  • 「風向き」「君子陽陽」「時間」「百合の夏」「処暑」が良かった。
  • 連作は短いものが多く、細切れ感があり。後ろの部ほど大作が増え、重厚感が出た。
  • やはり「さけのむばかをほっといてねる」が朝井さんの代表歌であります。
  • 母への憎悪は本書のバランスを壊してはいるが、その歪みこそが人間であり、よい歌はこのカテゴリに多くはないが、それが伝えたかったことなのだろうし、読者はただ受け取るのみ。
  • サッカーの歌が多いのでたいへん共感した。サッカーは歌になる。
  • 全体には地味であるが、皆さま方にはきちんと目を通して評価していただきたい本である。


以上です。