歌集『羽音』(朝井さとる)
- 作者: 朝井さとる
- 出版社/メーカー: 砂子屋書房
- 発売日: 2012/05
- メディア: 単行本
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歌集『羽音』(朝井さとる)は先々月いただきました。
ありがとうございました。
十首選
さそはれてかんたんに車に乗りし日の彼岸花彼岸花彼岸花国道
強きものは夏の線路の照り返し先頭車両に立ちて見てをり
信仰ををりをり変へて来し母にわたしができることは仕送り
ピコなんてそんなのゼロぢやねえかよと熱物理屋が分析屋に言ふ
手のひらのあはき地形も日暮れたリアドレス変更通知ありがたう
好きなのは窓辺にものを置かぬ家君子陽陽良夜深更(さけのむばかをほっといてねる)
たそがれて夜の試合に変はるなリフイールドとおなじ広さの夜空
名古屋とはかういふ町と梅雨寒を黙せり五十ならぶ火葬炉
映さるるメタミドホスはキシダ化学分析用試薬小瓶なるべし
五号球をまだ使はないこの子らがひとりも死なぬ夏を生きてゐる
以下雑感
- 「風向き」「君子陽陽」「時間」「百合の夏」「処暑」が良かった。
- 連作は短いものが多く、細切れ感があり。後ろの部ほど大作が増え、重厚感が出た。
- やはり「さけのむばかをほっといてねる」が朝井さんの代表歌であります。
- 母への憎悪は本書のバランスを壊してはいるが、その歪みこそが人間であり、よい歌はこのカテゴリに多くはないが、それが伝えたかったことなのだろうし、読者はただ受け取るのみ。
- サッカーの歌が多いのでたいへん共感した。サッカーは歌になる。
- 全体には地味であるが、皆さま方にはきちんと目を通して評価していただきたい本である。
以上です。