第58回角川短歌賞

短歌 2012年 11月号 [雑誌]

短歌 2012年 11月号 [雑誌]


今年の角川短歌賞は、藪内亮輔「花と雨」となり、
選考委員全員が1位に推すという史上初の圧勝でした。
藪内さんは、京大短歌の後輩で、塔に所属してらっしゃることもあり、
とても親近感があります。
リアルでは一度しか会ったことはないんですけども。


というわけで、今日は第58回角川短歌賞のレビューを簡単にしようと思います。


藪内亮輔「花と雨」5首選(○は一首選)


傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき町に出でゆく
雨の向かうに出てゐる筈の牡牛座の脳(なづき)は星でできてゐること
魂(たま)といふ凄き名前を持つてゐるやばい奴だぜ猫つていふは
○七日間は持たないといふ予定にて動くしかなく雲しぼる空
他者が死ぬ独特の痛みが(雨後の森)(きれいな鳥のこゑ)われに来る


以下雑感

  • 「花と雨」のテーマは、親しい誰かが病にあり、ついに亡くなってしまうという状況で、自己の痛みを表現すること。
    • とても伝統的なテーマで、自己と他者以外には余計なものはなにもなく、固有名詞は昇華し、抽象化がきちんとされている。このテーマは、非常にべたべたしやすいもので、べたべたは通俗に通じやすいのだが、藪内は意志をもってそれを避けている。
    • まあ、一種のアンチテーゼというか解答というか批判というか、そういう面もあるのでしょう。
    • お見事です。
  • 歌ひとつひとつを見てみると、S級は実はないんじゃないか、という印象。
    • 塔短歌賞のほうが個人的には好き。もちろん、結社賞と公募新人賞では、いろいろ違うし、それに合わせる面は当然あるから、仕方ない。
    • ただ、私は「塗り絵」と呼んでいるのだが、一連として統一感を持たせるために、表現を統一したり制限する方法があって、藪内さんの力量だともっといい歌になったものが、応募賞なので「塗り絵」にしているなあ、という印象をもつことが結構多かった。
    • あとは、1→2→3→4↑5↑(数字は句の番号)のパターンが多いような気がして、そこに少しえぐ味がある。
      • 一首選の歌はこのパターンの歌だが、最後の最後に「しぼる」を滑りこませることができていて、それができるのとできないのでは天地差があることで、感心したので採った。


あとは全体の雑感

  • 京大短歌や塔の皆さんの成績がよいので、たいへん喜ばしい。特に、笠木さんは、一年くらいボーナスステージになるので、頑張ってください。
  • 吉田隼人「砂糖と亡霊」が、1点なりに選考会では引っ張っていて、たしかに挙げられている歌に関しては面白い。なのに、歌が掲載されていないという罠。これはあんまりじゃあないか。よほど他の歌が悪いのか。


以上です。