『galley』(澤村斉美)

歌集『galley』(澤村斉美)は先週入手いたしました。


10首選(☆1首選)


窓の色はひかるものなき天の色おほらかにあり京都銀行(きやうぎん)の窓
五重塔のやうに瓦に陽をうけてわたしはだまつてゐたいのだけど
寒き夜にもの書く人の座りゐてもり上がる髪を桜島といふ
夫のなかに蓮のひらきてうすべにのやる気といふものつねにはかなし
心の中を空想されてゐるときにわれ少し怒らむ猿舎の内より
八月は被爆と野球に追ひまくられ眼痺れること朝刊が成る
あぢさゐのかほして君の言ふことは給料減りてごめん今月
☆朝5時の会社の窓のそばに立ち味の分からぬはみがきをする
光つてゐたあれは川ではなく心だと下流の川が教へてくれる
やめ方が卑怯と言はるる日がやがてわれにも来むか来ぬか来るなり
「けふの講義、不調だつた」と落ちこめる島崎健とあじろの夕日
祖父笑まふメロンやりんごに囲まれて「持つていきや」といういふ顔だねえ

  • 新年早々に今年のベストが出たかもしれない。
  • この歌集には二つの際立った特徴がある。
    • ひとつは、働いている人間の歌集であること。
      • ひとが働くのは当たり前なんだが、実は、歌集は働いているんだかいないんだかわからない人が編むことが結構多い
      • 仕事の重み、人間関係、時の移り変わり、そこにひょっこり顔を出す心の動き、こういったものが、丁寧にしっかりと述べられていてとてもよい。
      • 女性の歌は、女性であることを過度に意識していることが多く、それが全体的なオリジナリティの低さを出す(いわゆる女歌)のだが、この歌集は、作者が女性だからどう、とかはない。それは積極的に評価すべき。皆、働いておるのです。
    • もうひとつの特徴は、「夫」が頻繁に顔を出すこと。
      • 夫はDVするようなんとは正反対のタイプのようで、夫なんだが、上下関係のない親友のような風情。時間が経つと、夫婦関係には役割分担や力関係が出てくることが多く(夫>妻になりがち)、それは妻に収入がなかったり、こどもが生まれたり、という外的要因が大きいが、この歌集にはまだそれはない。その自覚をみせる「ディンクス」の歌もあった。
      • 夫との関係は肩が凝らない感じで、それが自然体の相聞になっている。この歌集には、内容であったり、書かれていないことであったり、世の中を真剣に考える生真面目さがある。そのテイストと、この自然体の相聞がよくこなれていて読後感が印象的。