歌集『リアス/椿』(梶原さい子)

歌集『リアス/椿』(梶原さい子)は先月いただきました。
ありがとうございました。


十首選(◎一首選)


尊敬するひとは誰かといふ問ひにゐないと答ふる面接練習
髯持てる遮光器土偶 ぽつぽつと頬にやさしき雨降るやうに
海中(わたなか)にも風はありたり吊されて柔くしなれる稚(をさな)き牡蠣は
◎お母さんお母さんと泣きながら車で行けるところまでを行く
配給のエビカツやつて来たりけり白身の中に赤身の混じる
布団また駄目になりたり板の間に拭いても拭いても沁みてくる潮
湯の内を浮き上がり来るまろき玉どの瞬間にひとは逝きしか
この米が誰かを傷つけるなんて青ずむ粒を擦りあはせをり
受け取ることの上手ではなき人々があらゆるものをいただく苦しみ
どこでもいい就職したいだんだんと平たきかほに子らはなりゆく


以下雑感

  • 第I部が「以前」、第II部が「以後」の構成。東日本大震災が時間を別けている歌集。
  • 震災詠の歌集としては、これがまずは「本命」ということになるかと思う。
    • ただし、この歌集の本質は、震災、ではなく、教師、である。より広い意味では、職業詠にある。
    • つまり、まず教師の日常があり、そこを震災が襲い、非日常へと転換し、そこからいろんなところで「余震」をみせつつふるえながら、それなりの日常へと回帰していく、その過程こそが本質である。
    • もちろん、「以後」の日常は「以前」のものとは異なる。
  • 相聞がやや弱い気がする。
  • 「お母さん」の歌は初出で衝撃を受けた記憶がある。
  • エビカツの歌は、凄い歌で、ある意味、塔の価値観の結実と言ってよい。


以上です。