岡井隆『銀色の馬の鬣』


5月4日に京都で批評会がありました。


10首選(☆一首選)


 相つぎて友逝く。
甲府すぎれば思ひ出す友熊本ときけば浮かび来顔のなかのきみ
タクシーで超える軽便鉄道の枕木むかしは歩いたんだが
起き直してある処までゆくまでに昼ちかくなる 不思議な爺だ
☆この辺に駐車し診療したむかしあのころも荒み切つてはいたが
詩歌にもメーキャップ効果は在るだらう A母音(エイぼいん)ゆたかに摺り込みたまへ
味覚また消えむとしつつ両の掌にチョコレートあまた。雨となる雪
わが妻とかはるがはるに浄めたる八事(やごと)の山の黒き墓あはれ
むかし豊田が挙母(ころも)と呼ばれゐしころの野を親友板倉と行きし憶(おも)ほゆ
音だけの言葉つて無い。金色の輝きだけの葉がないやうに
思ひがけず深いところに在る鏡一部始終を映してるぢやん

  • 老年の歌。記憶の歌や衰える肉体についての歌が多い。地名や飲食の扱いが独自。特に飲食は、医師としての視線があり、独自性が高い。
  • タイトルは、医師であり科学者である人物の釈明会見、についての一連から来ている。
    • 批評会ではここに踏み込むことができていなかった。
    • ここは、人間・岡井隆のいわば「プライド」の部分であるので、歌集を読むときにはずしてはいけないポイントである、と思う。
    • とはいえ、わかりにくい、というか、さらりとしているのも、また事実。
  • さらりとしている、というのが、私を含め、批評会出席者におけるひとつの共通理解であったように記憶する


以上です