真中朋久『火光』

火光―真中朋久歌集 (塔21世紀叢書)

火光―真中朋久歌集 (塔21世紀叢書)


春ごろいただきました。
ありがとうございました。


10首選(☆1首選)


ウォークマンがテープを回しゐしころの居眠りチョロ松もとうに死ににき
お父さんの歌は虚構と言ひきかす妻のこゑいたくちからを入れて
白きワゴンは訪問介護デイケアかバックしますバックします路地の奥まで
  「名瀬震度2震源は地中海」(一九九九年八月十七日)は誤報であった。
万の死を思はざりけるかの日のことよぎりしがただに息つめてしばらく
☆ブラインドあけはなちたる外光のまぶしくて昼休みの節電
甘やかされ手のつけられぬやうになりしもその街の出なれば兄弟
弟の殺さるるまでを見届けむ死んでも疎まるるべき弟の
じたばたと屈せず機をうかがひつつ屈せずはじめから骨なくて屈し得ず
ながあめののちの山体の怒張かな池みづに鯉が窺ひゐたり
ゆるきカーヴは貨物ヤードにわかれゆく錆いろのなかのぎんいろ二条
山上の小さき池のいくつかをめぐることもあるかイモリの一生[ひとよ]
かの日々には沖に航路を離しゐし牛乳運搬船白き巨船[おほふね]

  • 読むのが楽しい。
  • いくつかポイントがあると思ったのでざっと挙げる。
    • 震災・原発がらみの歌に厚みがある。実際に「揺れていない」場合は、これくらい積み上げないと他者の心には響かない
    • 性的な喩の使いどころが、あまり例歌のない感じでたいへん興味ぶかかった
    • 地面を広くとらえる表現・発想が際立つ。地理的とでもいうような独特の思考
    • おそらく、死者である「兄弟」と、影である「オルタ―・エゴ」と「作者」の三名が存在する。このようなやりかたで私性を超えていこうとするのは、個人歌集単位では初めてで、とても刺激を受けた。
      • ゲド戦記』的なベースにさらに混ぜてきた、というような印象


以上です。