河野美砂子『ゼクエンツ』

ゼクエンツ―河野美砂子歌集 (塔21世紀叢書 第 264篇)

ゼクエンツ―河野美砂子歌集 (塔21世紀叢書 第 264篇)

初夏ごろいただきました。
ありがとうございました。


10首選(☆1首選)


企画書に予算書も添付提出すモ−ツァルトを弾くための金額
逢はぬ日々を芙蓉咲きつぎ手も足も声もつぎたしつぎたして過ぐ
原典といへども初版と自筆譜の異なることに一日かかづらふ
胸もとに白毛ひろげふあんなりわれを見上ぐる犬の顔つき
まだ雪のふらない衣笠山が見ゆ白川静のともしてゐた灯
ひとくぎり練習[さらひ]終ふれば床の上に死体のポーズ[シャバアサナ]あたたかき私のからだ
三月は黄のフリージア三度買ひ自然治癒力の本ふえてゆく
かぎりなく桜膨張し吐くほどにおろかと思ひき汗落[あ]ゆるなり
むらさきの湯の舟にわがひたりつつ花の舟おもふ焼かれたれども
最後までママと呼びゐしその人を母と書くたびゐなくなるママ
☆ガラス戸に冬木の影をうつしゐるコンビニはああこころの寄り所

  • 母への挽歌にとても力がある。
    • 死者の悼みかたが、とても納得のいく心の持ちよう、構成
  • 職業詠に華やかさと深みが両立している。
    • ピアノとだけの孤独な対話ではないところに、動きや奥行がある
  • 紫野あたりの風景・自然詠に新たな印象がある。
    • はっきりとしたイメージを持っていることが伝わる
    • 池がよく出て来るが、あるいは心象の池かもしれない


以上です。