中津昌子『むかれなかった林檎のために』


初夏ごろいただきました。
ありがとうございました。


10首選(☆1首選)


右手置き左手を置きつつみ込むりんごが不安である筈はなく
うちしめりカンナが花を垂れている西日本のうす曇る空
放射線の恵みを受ける春の日のうらうらとして足がたよりなし
ふっくらと胸のあたりに結び目を作りぬほどくためのスカーフ
☆なかほどのあたりに話す声のあるらせん階段仰向きて見る
呑み込みし錠剤がのばす春の枝 体内に森が輝きはじむ
わが腕に巻きつけられる母の腕 流木のようにふわふわとする
いがいがと舌に残れる鱗あり指に移せば醤油の色す
一貫匁ろうそく太く燃えながら烏飛びする翁かるしも
秋の葉がはげしく降っているように母の食べる手震えやまざり

  • 特殊な立場・職業でなく、強い修辞を出すわけでなく、独特の間合いが特徴。
    • 手早く値切る、というか、おおらかな流れの中に京都エッセンスがまぎれない
    • 『光儀』『ゼクエンツ』とまとめて読んだので、三様に際立つ
  • 病、母の看病を主テーマに京都の四季が背景にある
    • 河野裕子と比較すると、「むりやり立ち向かう痛々しさ、演技性」というものは存在せず、一般的なメンタリティに根差すもの
    • 一方で、身体性を生物の喩として出すところに、短歌の歴史性がみえる


以上です