中家菜津子『うずく、まる』
- 作者: 中家菜津子,加藤治郎
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2015/06/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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初夏ごろいただきました。
ありがとうございました。
10首選(☆1首選)
あれからの日々を思って鉢に撒く期限の切れたミネラルウォーター
まっすぐな一本道の果てに立つポストに海を投函した日
花冷えの眼鏡の弦をたたむ音 目を閉じるのはあなたが先だ
☆三日目のパンの青黴、春の雨。微熱のおんなのにおいがまじる
貝殻が砂にかわってゆくまではわたしを生きて愛そうとする
親指で傘をひらくとひとつだけ折れてしまった銀色の骨
チェルシーの箱に金魚を弔って雪を掘っても土は見えない
産み立ての卵の青いぬくもりが震える指を伝う如月
スプーンを瞼にあてるおさなごが遠く見ているC[ランドルト環]
ササン朝ペルシアに引いた水色のラインはかすれ遠雷を聞く
- 相聞にみどころが多い。
- 短歌だけではなく詩がかなり多く採録されており、そこにシナジー効果があるかどうか、がいちばんのポイントになってしまうのは、すこし惜しいのではないか。
- 歌集名でもある「うずく、まる」が集中のひとつの山場であり、そこでの切実なテーマと、それが現実にあったことかどうかが一度は問われてしまう短歌、がうまく響きあっているのか、など
- 一方で、出身である旭川がバックグラウンドにあることなどは隠されておらず、そちらを棄てていない、というのをどう見るか
- 歌以前のところで気が散ってしまうのは損かもしれない、ということである
- 全体に、歌はことばの選びがゴージャスっぽく、詩はややシビアっぽい配置。
- リフレインに、ニュートラルな評価で、ある種の自己陶酔感がみえるのが特徴
以上です