川本千栄『樹雨降る』

樹雨降る (塔21世紀叢書)

樹雨降る (塔21世紀叢書)


夏にいただきました。
ありがとうございました。


10首選(☆1首選)


目の内に伝染[うつ]れば視力失うと眼科医は言いわが顔を見る
酔いはいつも身体の奥にあるものを酒を飲まねば取り出せぬ人
洞窟に入って行った子供たち小さな可愛い怪物たちよ
ペンギンとラッコを浮かべ笑っていた息子は遠い 湯船には髪
  ヴォイテク
ポーランド兵故国へ帰れず 戦場の熊の話のそれが結末
☆腎臓結石の人らと話をしていると自分も結石のような気がする
軍艦に似た雲光る 人を恋うことは私にもう無理ですか
入院の最後の夕餉はアジフライしっぽ残して皿の蓋閉ず
オオシマさんに替わっていたり大阪ガス検針票のコイヌマさんは
ラジコンカー有害ごみに廃棄して終われりわが子の子供時代は

  • こどもの歌が多い。
    • 頌歌が凡になることが多く、章立てと編年体のバランスに強弱があってもよかったかもしれない
      • いわゆる"孫歌"的な歌群
    • 印象が強いのは、具象を過ぎて存在のはかなさへと至った歌であり、あるいは、親からみた子である我、が登場して相対化された歌である
  • やまいの歌に良いものが多い。
    • 必然的に、最終第六章に山場が来ている。
    • ここにもう少しボリュームがあってよかったのではないか、もう少し読みたかったとも思わせた
    • 皿蓋の歌は、じつに塔っぽい名歌である(病院食は、汚染・乾燥などのトラブルをふせぐために、皿に蓋がついていることがある)


以上です