歌集『黄あやめの頃』(前田康子)

歌集『黄あやめの頃』(前田康子)は先週いただきました。
ありがとうございました。


10首選


日陰田に秋の終わりの風吹きて菊の花首刈られていたり
まずこれはきらいなひとにあげる花子が描きたるは白きどくだみ
目薬を誰かに注してあげたいな春の屋上まで階を登りて
ここいらが正念場という夜がありいらいらと歯を磨く音する
無音なり おはぐろとんぼそばに来て川の近さを我に教える
愛想のない方の猫探さむと近所の子らが細道を行く
残りたるカレーを捨ててその上にまだ何か捨つ冬の合間に
存在感ある雲ない雲漂いて山の向こうの夏を連れくる
俺の名を忘れたのかよ振り向けば川岸にどっとセイヨウカラシナ
生地の違う黒を選びて着ておりぬこの頃夫は大人びてきて


以下雑感

  • ムスリムに会う前」「商人のような」「無音なり」「私と薊」「出来損ないの弟のように」が良かった。
  • あー、これは歌会では高得点だよなあ、というので付箋をたくさん付けるが、選んだ10首は上記のようになる。
    • 歌会歌にはむかないようなタイプの歌になる。
    • 良さがうるさくないのが良い、という微妙な判断になる。多く歌われている植物も、百合歌ではなくどくだみ歌のほうが良くなる。
    • 自分でいうのもなんだが、玄人むけの歌集ということになるのか。
  • 全般的におとなしく、家族もいろいろ大変なようだが凪の感じがし、なんとなく寂しい、というか正負両面に感情の抑圧があり、それを解放するのではなく、そのまま丁寧に抑えているところに個性があると思う。
  • 好きだ、というだけあって、佐藤佐太郎に近いテイストがある。


以上です。