『日本美術全史』


『日本美術全史』は大作美術評論。
超傑作。

私はイタリアやフランス、そして中国のすぐれた美術作品は、文化を愛する人間として、必ず見ておかねばならない、と考えているが、そこに日本美術が加わるべきだと確信している。しかしこれまで、本書のような「様式史」を中心とした美術史が書かれなかったために、日本美術が宗教や習俗に従属しており、「美」の普遍性を持っていないと思われたのである。


このような意識で、日本美術を語っている。
そこには、田中英道の個人としての批評眼が確固して存在し、
圧倒的な知識・教養・文章力・西洋美術史家としての蓄積が、
全方面に展開する。
私は美術には疎い人間だが、本書が本として極めて優れていることは保証する。


凄まじく面白い。これで十分だろう。
また、廉価と流通力を両立させてこれを再販した
講談社学術文庫に深く敬意を表する。