『光の引用』(山下泉)歌集 光の引用 (塔21世紀叢書)作者: 山下泉出版社/メーカー: 砂子屋書房発売日: 2005/06メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る


6月ごろにいただきました。ありがとうございました。


十首選


古代舟ひしとつなぎし石錨のいつか茜を浴びし重さよ
おみな子が歌をさらえばのぼりきれぬ旋律はありああ草匂う
三ヶ所は水の喰い込む村なりき倒木こえて水を見にゆく
鳥羽山をながながくだりさかしまの地図看板を子がのぞきこむ
書きつなぐ日記の奥の湖に跳ねる魚あり石の鰭して
にがうりの青き香りをたずさえて弟きたる夜の扉に
遺稿集のための校正つづく夜更けには時間の鼻がつかめそうなり
枇杷・橘 風引きとめる葉振り見ゆ停車みじかき我孫子の駅に
どうしても見つからぬ本 なぐさめて天使の分け前にしようと思う
イーゼルを立ている人は不思議なり風景のなかに鏡をひらく


言葉の抽象性を重視した、「現代詩的」な歌の多いかたです。
したがって、しばしばでてくる「子」や「弟」も概念的な意味が強まり、淡く清潔な印象を強調して読者に与えています。
本の歌が多いことも特徴です。「天使の分け前」はウイスキーだけではないという発想は、書に親しむ人間でないとでてこないものでしょう。
全体的に中性的な言葉の選びが多いのも、書物の世界に親和性が高いためかとも思われました。