『白樺たちの大正』(関川夏央)白樺たちの大正 (文春文庫)作者: 関川夏央出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/10/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (16件) を見る


歌集ではありませんが関係は深いと思いますし、おすすめですので紹介を兼ねて書いてみます。


最近めでたく文庫に収録された『白樺たちの大正』は、関川夏央武者小路実篤の半生を軸に据えて大正時代の文壇ひいては世相を再構築してみせた書です。
木下利玄などの歌人や例の「パンの会」などもちらほら出てきます。
本書には関川の筆力によって、大正といえば「大正デモクラシー」で「比較的自由な時代」というような単純な把握を無効にするようないわば「生身の歴史」*1が血肉化された状態で存在しているといえます。
そのため読者はそこに惑溺することができ、この「擬似体験」は例えば大正期の歌集の理解にフィードバックされることが期待されます。
なにしろ歌集を読むさいに「時代の気分」を了解しているのとしていないのでは歌の鑑賞に大きな差が出てきますから。


短歌史的には、昭和に入るとプロレタリア文学の隆盛に伴って坪野哲久らが登場してくるわけで、読後には時代のコントラストを「実感」することもできます。
翻ってみれば、昭和から平成に切り替わる前後にも象徴的な歌集や歌人が出てきたわけで、
西暦でモノを把握する環境にいるとなかなか気付かないのですが、年号というのは案外な区切りなのだなとも思った次第です。

*1:もちろんこれは関川夏央の主観の産物ですから警戒はすべきですが、個人的には相当程度信頼しています