FUTON


FUTON (講談社文庫)

FUTON (講談社文庫)


今月のイチオシ小説です。文庫。
タイトル通り、田山花袋の『蒲団』の翻案とでもいうべき作品です。
2001年の東京が舞台であること、登場人物の一人がアメリカ人文学研究者であることなど、
各種の設定がFUTONの表記を支持します。
明治文学の翻案、過去と未来のカットバック、作中作、群像劇などなどある時期に流行った小説タイプの特徴をモロに備えており、
その意味では何番煎じかはわからないともいえるのですが、逆に、それでもなお面白いというのは凄いことであるともいえます。
キモは作中作である「蒲団の打ち直し」。
オリジナル内では名前も与えられていない妻の視点から『蒲団』を書き直したもので、これがよくできている。
いわば裏からみた『蒲団』というわけですが、これに現実の東京で進む『蒲団』相似形のストーリーが絡むという按配。
綿密に計算された構成、そこに埋没しないユーモラスでリアリティのある人物像、サブ・テーマに「東京の変遷」を忍びこませるなど
どれを切っても手練の技。ここにカタルシスまで求めては贅沢というものかもしれません。お勧め。