スポーツ・ライター


シドニー! コアラ純情篇 (文春文庫)

シドニー! コアラ純情篇 (文春文庫)

シドニー! ワラビー熱血篇 (文春文庫)

シドニー! ワラビー熱血篇 (文春文庫)

村上春樹の書いたシドニーオリンピック観戦記。
なぜ今頃突然春樹かといえば、某人から春樹の直筆サインを見せてもらって脳の古い部分が刺激されたためである。
これは非常にうらやましかった。


春樹嫌いの評論家*1が小説はくさしても
エッセイの良さは評価するなんてことがあるわけだが、
この『シドニー!』はたいへんよかった。
2000年の段階でこれが書かれていたのは凄いと思う。


2002年以降、日本のスポーツ・ライターの標準は飛躍的に上がっている、というのが私の見解。
それはもちろん、W杯があったから。
新聞記者や「Number」出身の定型的・浪花節的な文章を書くライター以外のライターに
場が与えられ(特権者以外も食えるようになった、ということか)、
主にサッカーで見違えるようなレビューが出てくるようになった。
ブログの普及も大きい。
ようするに、個人が個人の言葉でスポーツを語れるようになったということだ。
それまでは村上春樹のような特別な「個人」が「文章力」と「見識」を備えており、
かつスポーツにたまたま目を向けるという僥倖がなければ
シドニー!』クラスの記事には出会えなかったのである。


さて、先週ドラゴンズが日本一になり、だがそれよりも
パーフェクト・ピッチングをしていた投手を代えたことの是非が話題になった。
一応、マメが出来たがための不慮の交代ということで決着がついたのだが、
この件に関して商業メディアは注目に値する記事を出していないように思う(ブログは別)。
野球は既得権益のしがらみが強すぎて、ライターが育っていないのかもしれない。
というわけで、たまたま『シドニー!』をちまちま読んでいた私は、
村上春樹の意見をとても聞きたくなったのである。彼はなんと言うだろうか。
飲み食いの話で遠回りしながら、譲るべきでないところは決して譲らないだろうな、きっと。