誰も国境を知らない


誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅

誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅


傑作ノンフィクション。
国境の島々(北方領土竹島対馬与那国島尖閣諸島小笠原諸島硫黄島)を巡る旅程と
その島々の戦前・戦後の記憶を持つ人々の数々の個人史から構成されている。
前者は、これら国境の島々にいかに物理的に行くことが難しいかということを思い知らせてくれる。
他国に実効支配されている地域や政治的に問題がある地域に民間人が到達することを
日本政府が望んでいないという理由がかなり大きいこともある。
後者は、前世紀前半にかけて膨張した日本という国家が
敗戦により一気に縮んだことによって露になった「辺境」に
戦後史の蹉跌・矛盾が濃縮されて残されていることを伝えてくれる。
本書は作者の政治的な主張や主観は皆無に等しい極めてフェアな作りになっており、
そのことには強く好感を持つが、
もしかしたら、それはあえて強調するまでもなく読者に「痛み」をもたらす作品であることを
作者が熟知しているためなのかもしれないとも思う。
その「痛み」は身体的なものに近く、そのような連想、日本という国家を自身の身体と重ねるという連想を
自分がしてしまったという困惑をここで告白しておきたい。
本書はそのような力強さをもった作品である。