ポトスライムの舟(津村記久子) 芥川賞受賞作


文藝春秋 2009年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2009年 03月号 [雑誌]

維持して、それからどうなるんやろうなあ。わたしなんかが、生活を維持して。


快作。

  • 主人公のナガセと私はスペックとしての年収が違うだけで、本質的な違いはどこにもない。
    • 人生の短期的な目標が、某NGOの洗脳世界一周旅行費用だというのは涙をそそるが、なに、そんなに変わらないよ。その百六十三万は、歌集を出すのとほぼ変わらない金額であるのだから。
  • ナガセとその友人三人には、女として独特の人生行路を与えられ、それに沿って生きている。それなりの苦労や労苦が書き分けられているのは見事である。
    • しかしながら、私としては女が羨ましい。彼女たちの間では、まだ相互扶助の概念が息づいており、それゆえこの小説にリアリティが存在するのだから。私たち「彼ら」の間では、そのようなものは存在せず、当然「男性の」津村記久子は登場しようがない。ポトスのような安っぽく生命力豊かな象徴は存在しない。
      • だから、池澤夏樹が選評で愚痴をこねるのは、よくわかるのである。
  • ところで、関西はいいなあ、と別口で思いました。彼の地の、過去の文化的遺産で食っていっている感覚は、日本の他の地域にはない独特のものでありますよ。