叙述トリック


葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

読了。傑作。
映像化はもとより不可能なのだが、
あの『ハサミ男』ですら映画化していたらしいので
何か大事なものを捨てればそれも不可能ではないかもしれない。


短歌でも叙述トリックに相当するものはあって、
それは「われ」という名詞である(あるいは「わが」という形容詞)。
ある程度名の知られた歌人が歌中に「われ」という語を使うとき
まさしくミステリにおける叙述トリック的に本来の生身のスペックとはずれた自分を表現している、
ということは往々にしてあり*1 *2
歌をよむさいそれをまともに受けるのか、斜にかまえるのかで、
読者としてのスレかたの年季がわかろうというものである。
このあたりは、わかるわからない(あるいは、許す許せない)の問題であって
読者論のコネタにはなろうか、と思われる。


ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

*1:ズレを明示しない、というのがポイントである

*2:前衛短歌では、仮構の「われ」をいかに構築するか、に意識が向けられていたほどである