日ざかり(川本千栄)


10首選


身を反らし泣く子を何度も抱き直しもう用済みの乳房が痛む
湯の中に白く煙(けぶ)りて乳は噴き私とお前の蜜月終る
人の一生なんて皆くだらない子の絵本振って夫の陰毛払う
象を背に子を腕に抱き微笑める写真の女 妊婦の私
おばあちゃんが死ねばいとこは遠くなる 鯖寿司差し出す細き両腕
ガンダーラ仏に似たるウルトラマン 歴代の顔が吾子を見下ろす
日ざかりに出でて遊べば子はもはや芯無く揺れる幼児にあらず
締切は守ってほしいなり夫荒れて子供が泣いて週末暗澹
賽の河原の石積みに似て五限目はひどく疲れて怒らぬ私
報酬の欲しさに影を売り渡し教壇に立つ二十数年


今月いただきました。ありがとうございました。以下雑感。

  • 子供の歌が多い。河野裕子の影響を強く感じる。
  • 子供の歌に比べると数は少ないが、職業詠に見るべきものが多いように思った。
  • 戦争に関わる歌・思想詠などは意欲的なのだが、スタンスが上手く見えてこない面があってもどかしい。