鉄とゆふがほ(岩野伸子)

ISBN:9784861981449


十首選


わすれ草つぎつぎひらき夏ふかし影のごとくに庭をめぐれり
アル中の過去もつ人と知りしよりこころに近しモーリス・ユトリロ
手違ひの図面をめぐり男らの声昂ぶるを聞きつつ事務執る
メジロ一羽の重さははがき四枚ほど 暑中見舞を書き終りたり
旧姓に戻りたる子がボーナスは全部渡すなどと言ふをかなしむ
逆恨みさるることなど恐れずにわたしは一つの山になりたし
本当に母は死んだのか給料日を前にとにかく給料計算をする
ああわけのわからぬこの世のはずれにて日が照る畑にラッキョウの花
苦しみてゐるほかなくて苦しみし日々も或いは甘えてゐたか
山の上にかがやく雲に意味はなく泛かびてゐたり十方ぐれ入り


今週頂きました。ありがとうございました。以下雑感。


・夢の歌が多い
・虫の歌が多い。特に蝶・蜘蛛は目立つ。
・鳥の歌も多い。バードウオッチングをよくしている。
・猫の歌も多い。
・母を思う歌が多い。母が「自分」の鏡になっている。親子関係の複雑さが伝わる。
・工場の歌によく○が付く(「工場の鉄扉」)。