歌集『百たびの雪』柏崎驍二

歌集『百たびの雪』は先月末にいただきました。
ありがとうございました。


十首選

山頂の鷲のかたちの崩れつつ五月の雪はちからおとろふ
物のあるゆゑに言葉もまたありて砧斧(ちんぷ)の砧は人を切る台
万葉に水陰草(みづかげぐさ)と詠む草のあれども何の草とも知らず
道ばたに里芋の茎を乾す人あり〈北上〉はむかし〈日高見(ひだかみ)〉の国
『死の棘』の外(ほか)なることをわれは識(し)らず島尾ミホ逝けり八十七歳
をりをりに山女(やまめ)にまじる鮠(はや)にして朱の腹あはれ山国の鮠
県庁前並木の橡(とち)に蝋のごと白花立ちて梅雨明けちかし
岩に彫る羅漢の顔の線うすれ飢饉の記憶われらにとほし
紀伊のくに阿田和の蜜柑たまひたり海より月ののぼれるところ
寿(ことぶき)家葬儀中なり稲刈りを終へし日戸(ひのと)の常光寺みち


以下雑感

  • 歌上手の作品集。編年体。特に平成十九年が充実していると思った。
  • 「鳥の唾液」「岩手地名集」「方言」「安家川」「肘笠雨」などの連作が特によかった。
  • 固有名詞にこだわりがあることがしれる。