歌集『心音(ノイズ)』(柚木圭也)&映画『君に届け』

歌集『心音(ノイズ)』(柚木圭也)は先月末にいただきました。
ありがとうございました。


十首選

陽を浴びて空のもなかに伸びゆけるビルの裏側いつも見えない
「小杉平一」でふ表札あはれ日の丸は風死したれば地に靡きをり
自転車で走り抜けるとき春泥はあるやさしさをもて捉ふるしばし
泥付きゴボウ握りしめればありありと手に反りくるゴボウのちから
投網(とあみ)打たるるごとき迅さに流れゆく巻雲はあり夏の未明を
地下鉄にソバージュの髪はらふ手に生まれこぼれて春風といふ
ガーゼあてて血の吸はれゆく手のひらの数秒を春の時間といひて
雨に腐葉土けぶり匂ひてたうぷりと雑犬(ざついぬ)われは肺ふくらます
生(あ)れてしまへば降るしかなくて闇のむかう雪の悲鳴を聴いた気がした
夭折を希(ねが)ふなどなく歩みきたるわが体温にほろぶあは雪


以下雑感

  • いい歌が多かった
  • 飲食の歌が非常に多い
  • 一連としては初期の「熟れゆくときに」「約束」「牛乳のような」によく印がついた
  • 自己諧謔があまり上手くいっていないような気がするのは惜しい