歌集『十月桜』(岡本幸緒)

歌集『十月桜』(岡本幸緒)は9月末にいただきました。
ありがとうございました。


10首選


夕暮れが東京駅にさしかかる ふるさと行きに間に合う時刻
緑なき病院屋上陽を浴びて死にたくなるよ盛夏八月
柔らかになりたしわれもたまねぎもキャベツも春の生まれであれば
画家の描く絵よりも文を好みたり彼の画集はきっと買わない
ナポレオンパイかじりつつ夕刊に自衛官の妻の声読む
キッチンとオフィスにわたしの椅子がある わたしの椅子はあるのだけれど
輪郭をぼやかさぬためメールでは喜怒哀楽をはっきり告げる
潮騒のような雑音ともないて携帯電話の声が届けり
イチローの打率よりもという喩え分からぬままに頷いていつ
薄暗き御堂の中の泣き弥勒ながき指にてこらえていたり


以下雑感

  • 平明な歌からなる。喩が歌を撓ませたりすることはない
  • 構成もピークをもたないが不思議と気にならない
  • 自然詠(植物)が少ない都市型のありかた(桜くらい)