『だいたい四国八十八ヶ所』&歌集『月は燃え出しそうなオレンジ
エッセイストの宮田珠己が今回はお遍路に挑戦。
一気に四国を巡るのではなく、区切り打ち、といって
ヒマなときに歩けるぶんだけ歩いて途中で帰り、
次の回は前回辞めたところからまた歩きだす、というやりかたで攻める。
お遍路の記録なんて山ほどあるわけだが、
これが宮田の手にかかるとすぐさまユニークなものに変貌してしまう。
読者をむりやり笑わそうとしているわけでもなく、
むしろたんたんとしていて、
足にマメができたとかどうでもいい話を繋ぎながら
まったく飽きない。
はっきりいって、達人の文章である。
自在でありながら、実は名言も多く*1、ひとを嫌な気分にさせない。
いずれはこのひとのような文章を書くことが望みの私だ。
- 作者: 宮田珠己,石坂しづか
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2011/01/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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歌集『月は燃え出しそうなオレンジ』(柴田瞳)は今週はじめにいただきました。
ありがとうございました。
十首選
まぶたより免れた目薬拭きもせず思い出せないフレーズがある
オレンジに塗り潰される君の地図の「果樹園」の記号になりたかった日
あなたから借りた本より一本の髪が栞の如く現る
口紅がだらりと溶けた女だけ我を見ている最終電車
そうなのだ我は写真屋失格で君は恋人失格なのだ
ああわたし泣きたかったんだねわたしこの無機質なドアの前でね
生乾きのシャツをもう着るはめになるまたアポなしで来たバカのため
共通の敵がいたのでみんなして死ね死ね死ねと行進したさ
枕から飛び散る羽毛雪のよう キレてるおねえさんは、好きですか。
ハーレクイン16冊にカバーするその神経をわかりかねつつ
以下雑感
- 前半は相聞、後半は生活詠。あまり喩に凝らない。
- 「静謐」「写真屋失格」の一連がよかった。
- 第III部のなげだしたような啖呵な短歌が興味深い。
*1:ふざけてはいけない、など