『自壊する帝国』&『ヴォイニッチホテル』#1

『自壊する帝国』はノンフィクション。
新潮ドキュメント賞大宅壮一賞受賞作。
傑作。


今回佐藤優を初めて読んだ。
胡散臭いな、と思っていたので、誰も何も言わなくなってから読もうと考えていた。
残念ながらその判断は間違いで、もっと早くに読んでおくべきだった。


佐藤はモスクワに外交官として勤務し、ソビエト連邦の崩壊を目の当たりにしている。
『自壊する帝国』は、その時のことを書いたものだ。
自身の身辺状況を交えながら、当時のソ連の状況や国際関係を丁寧に描写していく。
筆力も一流であり、読みやすく、臨場感があり、生々しい。
特に「サーシャ」というモスクワ大学哲学科の超天才学生とのやりとりには
特筆すべきものがある。
本書は、佐藤と「サーシャ」の友情・青春の記録でもあり、
それが不思議なみずみずしさを与えている。
外務省や政治の汚い内幕を晒しながらも全体として品性が落ちないのは、
ただの告発本という領域を遥かに越えた地点から本書が執筆されているためである。
優れた書は多面体になる。これからも佐藤優を読むことになるだろう。

自壊する帝国 (新潮文庫)

自壊する帝国 (新潮文庫)


ヴォイニッチホテル』#1はマンガ。


太平洋南西にある架空の小国の架空のホテルが舞台。
おかしな経営陣とおかしな客とおかしな島民が繰り広げるドラマ。
画は極めて美しく、ストーリー展開はジャズの即興に似て読めず、
道満晴明の天才を堪能することができる。
本来エロマンガの作者なので、物語に簡単にエロが浸入するが、
特段たいしたものではなく、むしろ味があってよいぐらいなもの。
短編が多い作者なので、長編を読めることを深く喜びたい。

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)