歌集『地の世』(竹山広)

歌集『地の世』(竹山広)は先週にOさんより譲っていただきました。
ありがとうございました。


十首選


暗黒の中ひそかなるよろこびありあくびのあごのすぐに座りて
足の爪手の爪ともに切り飛ばす師走の縁の光のなかに
路上よりきこゆるは文明の音にして三階に病む耳のさびしさ
死は突如くるものか徐徐にくるものか思ふ未明の盗汗のなかに
これ以上生きていけぬと思ふ日のつづきて塚本邦雄忌も過ぐ
来客のため中止せしロザリオの残りをつづく二時間すぎて
この妻と生死分つは当然のことなるものを朝夜おびえつ
たまたまにわが古歌のほめあるをわれよりも妻ながくよろこぶ
朝五時を待ちわびてのむ安定剤一錠よわがいのちのあかし
銭を出して投稿したる少年のかのよろこびよ立ち戻り来よ


以下雑感

  • 竹山広の死後に有志により纏められた歌集。死を思う歌、妻を思う歌、信仰の歌が目立つ。
  • 「ひ孫よ」「文明の音」「さらすことなし」の一連がよかった。
  • 死を受け入れた歌・綺麗に纏めた歌が散見され、それは仕方ないことかもしれないが、心に強くは訴えかけてこない。他者への呼びかけ、生への執着、信仰の心を述べた歌こそが本歌集の真骨頂である。『地の世』のまえに頭を深く垂れたい。私の一番好きな歌は「ロザリオ」の歌である。