批評会in京都 「奇跡の土曜日」について
さる3月26日の土曜日に京都で私の第一歌集『地球光』の批評会が開催されました。
今日はそのご報告をいたします。
まず、二点、最初に作者として確定させておかなければならないことがあるとわかりましたので、
それを記しておきます。
1.『地球光』のタイトルはアーサー・C・クラークに由来する。
アーサー・C・クラークはマイ・ヒーローの一人です。彼が書いた作品に『地球光』というものがあります。1955年の作品です。たとえば、『幼年期の終り』などに比べると大変地味で知られておりませんが、個人的には好きな作品です。『地球光』を検索するとヒットしてくる『∀ガンダム』を私は見ておりませんが、総監督が富野由悠季なので、あの世代はクラークの『地球光』を読んでいるに違いないと想像しております。根っこはたぶん同じなのです。
というわけで、タイトルがクラーク、エピグラムがトマス・M・ディッシュであり、SF作家を最初に二つ並べたことになります。これは私がいわゆるSF者であるからです。もうひとつ、先回りするかたのために言っておきますが、この二人はゲイですが、私はそうではありません。私は平凡なヘテロです。
2.小池光の『エヴァ』考は彼一流の韜晦であり、作者である私はこの小池節の文章を頂いて大変喜んでいる。
小池光もマイ・ヒーローの一人です。私はたぶん日本で一番『草の庭』を読んでいます。栞文の冒頭に、『エヴァ』とは何か、という文章があります。検索したにもかかわらずわからなかった、と。しかし、これはありえません。間違いなく『新世紀エヴァンゲリオン』がヒットしたはずです。小池光はわかっていたのにはぐらかしているわけです。
私はこれを「メッセージ」として受け取り、おそらくある種の「エール」であろうと踏んでおります。ですから、この栞文を頂いて大変に喜びました。どうも、このはぐらかしに対し、一部で批判や疑問の声があるようですが、それには当たりません。その点はどうぞよろしくおねがいいたします。
それでは、以下つらつらと『地球光』批評会について述べてまいります。
- 金曜日
- 夕御飯を食べたのち、出発。本当に京都にたどりつけるのであろうか。
- 秋田新幹線「こまち」の最終便で盛岡から秋田へ移動する。秋田新幹線はミニ新幹線で在来線を使用する。普通は新幹線乗り場のほうにこまちは入るのだが、今回ばかりは東北新幹線が止っている*1ので、初めから在来線乗り場に止っていたのが印象的だった。
- 秋田駅に着く。秋田は二回目。大変暗く寒く、早々にホテルに入る。コンビニで水でも買おうと思っていたが、秋田のコンビニにも見事にモノがないうえに、とっくに閉まっていた。秋田は地震の被害がほぼなかったはずだが、物流の断絶という点ではあきらかな被災県であった。
- 即眠ろうとするが、震災報道で気分を害してしまい、なかなか眠れず、結局SFを一冊読みきってしまい、別のミステリにまで手を出してしまい、いろいろ悪循環に陥るものの、二時ごろになんとか寝る。
- 土曜日
- 七時ごろ起床。七時半ごろチェックアウト。
- コンビニが開いていたので、あんぱんと缶コーヒーを買う。
- 空港リムジンバス乗り場で待つ。結構ひとが並ぶ。なんだかよくわかっていない。
- バスで秋田空港へ。周りが雪景色に。一応雪は降っていない。飛行機が遅れることはないだろう。
- 九時過ぎに空港に着く。チケットを購入*2。知らないうちにQRコードになっているので驚く。
- あんぱん食べながら待つ。
- 秋田10:10-伊丹11:40JAL2172便に乗る。たぶんこれまで乗った中で一番小さい飛行機。一度地上に降りてから直乗り。中身百席くらい。怖い。
- フライトアテンダントにベルトを装着してくださいと怒られる。覚えているのは非常な美人だったから。
- 意外と揺れず伊丹着。
- たいへん暖かく、なぜか腹が立ち、ツイッターでその旨ご報告。
- 空港リムジンバスで新大阪駅へ。
- 新大阪駅に着く。
- 人が多いので唖然とする。もうよくわけがわからない。三年前は渋谷の交差点を平気で横断していたはずなんだが。
- JRの新快速で京都へ。
- ドアの開閉がボタン式でないのに驚く。
- 窓外の風景が家ばかりで驚く。田んぼがないよ、父さん!
- 京都駅に着く。
- 土地勘が消えたのとデカい駅は久しぶりだったので、さっそく迷う。
- 伊勢丹の地下で、東京批評会のパネラーの人に御礼を送る。盛岡だと送れないため。いろいろ悩んだ挙句、とらやの羊羹にする。
- 駅地下で昼飯。食べながら読んだ『二流小説家』が大変面白いので、このままずっと本を読んでバックレてしまったほうがいいんじゃないかという気がしてくる。混乱の度合いが激しい。
- タクシーに乗ろうとしたが、ちょうど206系のバスが来たので乗って見る。
- 206系というのは七条通りを行って東山通りに入り、高野で曲がって北大路駅に行く路線。はっきりいって思い出どころじゃない場所を通る。
- チェック・インする。着替えて会場に出発。
- タクシーで三月書房へ行く。
- 歩いて会場のハートピア京都に向かう。なんだかよくわかっていない。
- ハートピア京都に五時少し過ぎに着く。「奇跡の土曜日」のはじまり。
- 四階の会場にいき、まだ始まってないのでロビーにいったら棚木さんが居た。
- 泣かないよ。
- いろいろだべる。京大短歌のひとを紹介してもらう。いいな若者。
- 部屋の掃除が終わり、会場が開く。
- 椅子と机の並び替えを手伝おうとするが、棚木さんに「もう、アンタはなにもせんどいて」とオネエ言葉で言われ、退散。ぼーっとする。
- 正直なにがおこるのかを理解していない。
- 机と椅子が並び、どこに坐るのがよいかわからないままとりあえず適当に坐る。
- ひとが続々とくる。最終的に、三十数名。開催決定から一週間なのに、これだけ人数が集まってくれて、ただただありがたい。
- なんと、末松君が来てくれる。これは完全にサプライズ。涙腺の崩壊をぎりぎりで食い止める。
- 時間が来たので批評会開始。
- パネラーは薮内さん、澤村さん、魚村さん。司会は島田さん。
- 口を出す司会ということで、島田さんもレジュメを準備。
- 最初にパネラー&司会の基調報告。京都開催決定から一週間しかなかったのに、この読み込み様は凄すぎる。完全にガチ。本当にありがたいことである。以降、島田さんの演算能力が炸裂。さくさく発言を要約し、さくさく次の議題を拵えてくる。いやあ、久しぶりだな、この安心感は。
- 皆さんから色々お言葉を頂く。本当にありがたいことです。といいますか、私は、自分の歌で場が形成されているのが非常に不可解で、くるくるしてました。あー、その歌知ってるわーって俺の歌やんけ、という自分ツッコミをさんざんしておりました。メモを見返すと鮮やかに色々な場面が蘇ってきます。この四枚のレジュメの紙は家宝にします。
- 誰も指摘してこなかった歌が批評されるのは嬉しい。「ペイロードベイ」の歌の解釈が魚村さんにより初めて行われ、読みがぴしゃりと寄って来たのは単純に興奮した。
- 貫禄を見せたのが吉川さん。「たほたほと」と"脊髄"の一連を挙げるだけで、見事に斬ってくださった。あっ、やっぱバレとったわー、と思いましたねえ。
- 最期に全員発言して終了。沁みました。
- 全体の印象は、あったけえなあ、というものでした。これは京都が完全ホームで、昔からの仲間がたくさん来てくれて、読みのコードが始めから固まっていたことによるためだと思います。その意味では、完全アウェイであるはずだった東京批評会が行われたらどうなっていただろう、と思うと、やはり、悔しい、というか、無念、の気持ちは残っております。違った充実感があったのではないかなあ。パラレルワールドがきっとあるんでしょうね。
- その後、塔有志さまと神楽岡有志さまから花束をいただく。いやあ、こんなに花が似合わない男もいないですからねえ、参りました。本当にありがとうございます。花は分けて皆さんに持って帰ってもらった。
- 補足的に批評会の感想ふたつ。これは歌集の御礼の御手紙を拝見しても思っていたことですが
- 1.好きな歌、論じたい歌がなぜかかぶらない。
- レジュメをみたところ、各人30首ぐらい選んでおられるわけですが、かぶっているのは「秋雨」の歌と「貯金が脂肪」の歌だけで、それも二人ずつ、といった按配。つまり本批評会では約120首もの歌が論の対象に挙げられた、ということです。御葉書を見てもそうで、好きだ、といって書いてくださる歌が、全員ばらばら。一番人気は「秋雨」で、これは作者としても特別に場所を作っておいてあるわけで、それはわかるのですが、あとは見事に食い違う。まあ、そういう歌集です。
- 2.I部好きとII・III部好きにきっぱり分かれる。
- これも御手紙と共通です。多くの場合、I部好きは、後ろがだんだん地味になっていった、とおっしゃり、II・III部好きはI部は難しい、とおっしゃる。今回、II部好き、という新たなひともあらわれ、混沌としております。まあ、そういう歌集です。
- この特徴がいいことなのか悪いことなのか、まあ、いいことでありますように、とは祈っておりますが、どうですかね。
- 1.好きな歌、論じたい歌がなぜかかぶらない。
- アフターの前に大辻さんと昔話のお話する。そう、私、左岸の会では最年少で、歌会の票も入らないダメっ子だったんですよー。とかいいつつ、なんだか褒めてもらうので嬉しい。
- パネラーは薮内さん、澤村さん、魚村さん。司会は島田さん。
- 一次会開始。
- 皆さんありがとうございます。
- 主役席に坐らせてもらう。居心地、むずむず。
- 魚村さんと話したり、土岐さんと話したりして、今回冒頭に書いた二点が、問題かなあ、という気がしてくる。
- 大森さんと初めてお話する。京大短歌は出来たとのこと。楽しみです。京大短歌、異様なレベルで読まれるのでねえ、どうなりますやら。私が作ったのは、これは10年以上前になりますかねえ。。。
- 吉川さんと、「思想」と短歌について話す。勉強になる。こういう話が出来るひとが普通にいる京都という土地がうらめしい。
- 真中さんが、この一連の出来事を「奇跡の土曜日」として紹介。深く感銘を受ける。命名者は真中さんです。あとで聞いた話だが、本批評会の骨格は30分でできたそうだ。このスペシャルすぎる関西手弁当組が内閣にいたなら、現内閣よりもいい仕事ができるんじゃね?と思う。マジ凄い人々を友人に持ったわー、と思う。私の青春は間違いじゃなかったね。
- 「エウラキロン」についてはぜひ周知したいと思っております。なんならエウラキ論を書いてもいいです。
- まあ、ここは書いてもいいか、我が同胞、末やんがカムバック宣言。いやー、君、なんでそう泣かそうとするわけ?畜生。グッとくる。実際のところ、私のような半端な人間でも、カムバックして、歌集出版まで漕ぎつけることは可能です。私が証人です。特に、「塔」に所属していて、「歌のわかれ」を経た人に告げますが、あなたを待っている人は必ずいます。これは本当です。私の場合も、待っていてくださるかたがいたので、ここまで出来ました。安心して、こっそりと、作品2欄に投稿しましょう。門番は見てみぬふりをするはずです。あれだ、見ているかどうかわかんないけど、特にねえ、門真のMさん、あなたのことよ、わかっているよね?まあ気長に待ってるよ。
- ここで真打登場。裏方キング西之原さんです。宴会部長として名を馳せ、批評会ではマイク係として走りまわり、なにが楽しいんだか「塔」の半分の人間の事務をそしらぬふりでやっている、よくできた人です。とりあえず歌集を出そうね。ていうか、私のほうが先に出すとかありえんよ?といいますか、ありがとうございます。本当に。
- 彼は、今回のマジックの裏のコンダクターとして木更津さんをご紹介。ありがとうございます。この「奇跡の土曜日」はいろんなひとの想いが奇跡的にリレーでつながって開催できました。あらためまして、本研究会に関与した全ての皆様に御礼を申し上げます。ありがとうございました。
- 二次会開始
- あっという間に濃厚メンバーとなる。
- 濃厚な話が展開。爆笑したりする。被災以来こんなに笑ったことなかったです。
- 震災の歌、頼まれたり、自分で作るべき、とか思ったりしてて、実は結構な数作っていたんですが、この二次会で、考えが大分変りました。眼が覚めました。これは本当にありがとうございます。京都に来て、皆様と話してなければ、凡百の短歌しか作れないところでした。宣言します。震災でいい歌作ります。流行に乗らない歌を作ります。流行に乗れないひとの、心を動かせる歌を作ります。頑張ります。末やん、ありがとう。
- 棚木さんの奮闘を聞く。まことにありがたい。この場にいたら、イジリ倒してやるのになあ、なんで早く帰っとんねん。本当にありがとうございました。次の飲みは奢りますので、ぜひ。
- 楽しかったです。私は一人ではありませんでした。
- 三次会開始
- ひさびさにラフロイグを飲む。盛岡にはたぶんない。そんなこといったら怒られるかな?
- 皆さん、さすがにお疲れ。ありがとうございました。四時までつきあってくれるなんて、そうそうないです。あと、僕ら、年取りましたねえ。京都での学生時代がこんなに愛おしいものになるとは思ってもみませんでした。本当に。
- ホテルに帰る。
- 正直眠れない。
- ずっと考える。震災の歌をどうするか。批評会で言われたことをどう血肉とするか。
- 震災報道を見ながら、頭の中でずっと歌を作る。震災で10首くらいはできる。今回の批評会で10首作る。これは、詰め将棋の要領ですね。11手詰めぐらいのイメージ。
- とかいっているうちに夜が明ける。
- そのままホテルで十時まで粘る。
- 日曜日
- 高野から鴨川を南へ下りはじめる。
- 鴨川歩いていると、もうこれはどうしようもない感じ。
- 鴨川にかかっている橋を全て一度だけ渡る方法ってのがあったけどあれはなんだっけか。一筆書きの問題なんだけども、たぶん京大ミステリ研出身の誰かの短編だったような気が。
- 出町柳に柳があってなんのデオチかと思う。
- デルタに立つ。
- 四条川原町のところで上にあがる。
- 鴨川歩いていると、もうこれはどうしようもない感じ。
- ふらふらする。
- 新快速で新大阪駅へ。
- 窓外は家ばかり。田んぼがないよ、母さん!
- 新大阪駅からリムジンバスで伊丹へ。
- バイパスで事故があったらしく、下道をいく。急ブレーキの嵐で気持ち悪くなる。なんでこんなに運転が荒いのか意味不明。
- 伊丹でチケット購入。
- 秋田空港着。
- 雪はやんでる。
- バスにのって秋田駅へ。
- 秋田駅から終電のこまちにのって盛岡へ。
- 盛岡21:00着。
- 駅ビルまっくら。寒い。揺れる。まあ、これが現実よ。
- 家に帰って倒れる、まえにブログとツイッターとメールをいじる。そんで倒れて意識不明。
- 高野から鴨川を南へ下りはじめる。
完。
みなさま本当にありがとうございました。