『やわらかに曇る冬の日』(今井恵子)

『やわらかに曇る冬の日』(今井恵子)は歌集。
二月ほど前にいただきました。
ありがとうございました。


十首選


江仁屋(えにや)といい古仁屋といいて地図を指すニヤの語源を思いみるべく
大正九年軍事要塞なすべしと加計呂麻島に賑わいのあり
特急がワンッと残せる突風のほぐれゆくらし暗き線路に
マッコウはひとつでザトウは二つです背にある鯨の鼻孔を知りつ
真中に大穴のあく石柱は日本橋を支えしとあり
愛憎をわれに刻みし母なりきひりひりとして母は粗塩
みずからの形にもどりゆくのだろう夜闇の中にて紙の音する
すぐそこで母が焼かれているときを舌上にあり弁当の芋
ふらいぱん声にして言うふらいぱん壁に掛かりてふらいぱん静か
北向きの窓も明るむ頃おいをまだ学歴にこだわりながら


以下雑感

  • 加計呂麻島」「鯨」「粗塩」の一連がよかった。
  • 母の死関連の歌が抜群によい。
  • 一方で、知的操作の入った歌、特に反戦的類想から出た歌が凡。
  • オノマトペは成功していない。ただ、これは無理もない話である。新しいオノマトペを効果的に使うのは難度が高い。
  • 文章の挿入に特段の効果は認められない。
  • 年齢にしては自然詠が少ない気がするのだが。。。空穂系はそういう傾向があるのか?


以上です。