『燕麦』(吉川宏志)
- 作者: 吉川宏志
- 出版社/メーカー: 砂子屋書房
- 発売日: 2012/08
- メディア: 単行本
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『燕麦』(吉川宏志)は昨年夏ごろいただきました。
ありがとうございました。
十首選(○は一首選)
いやだなあ雨の時代に遇うなんて ゆっくり溶けてゆく紙袋
揺れているスズメノベントウ そんな草ないんだけれどすずめのべんとう
どの石も凶器とならむ石山がこの町の昼にかぶさってくる
印鑑をしずかに捺してゆくように白猫のあし塀をあゆめり
線路から暑くなりゆく春の日に青く小さな碗の花咲く
曇天といえどあかるき空のなか鬼瓦あり眼球は穴
この家のなかにも小さき十字路のありて娘とすれちがいたり
○天皇が原発をやめよと言い給う日を思いおり思いて恥じぬ
襖ごと高響きしてテスト明けの子が聴いているフー・ファイターズ
あれはみな私服警官(しふく)ですよ、と言う声す蕨のように橋に立つ人
以下雑感
- 「蝶つがい」「バテシバ」「夜泣き峠」「燕麦」「六月抄」「湧き水」「海上の橋」「トロイア」「靴の雪」「子の卒業」「百夜」「レモン水」「灰降る町」「何も見えない」「寒の酒」「縦列」が良かった。
- この歌集には三つのピークがある。連作「トロイア」と河野裕子への挽歌群と震災・原発詠である。
- 「すずめのべんとう」みたいな、フルコースの途中に出てくる小さな和菓子みたいな歌が好きだし、凄いなあと思う。
以上です。