『満洲浪漫』(大島幹夫)

満洲浪漫 〔長谷川濬が見た夢〕

満洲浪漫 〔長谷川濬が見た夢〕


満洲浪漫』(大島幹夫)は伝記。
長谷川濬、というロシア文学翻訳者の一生。
こういう人*1


文学者としては、戦前に「大亜細亜の作家」として祭り上げられたバイコフ『偉大なる王』の翻訳者、
としてのみ名を残す。
その他には、甘粕正彦の自殺に立ち会ったことなど。


著者の大島は、長谷川の家族より、「青鴉」と名付けられた膨大な量の詩ノートを入手し、
それをときどきに引用しながら、長谷川の生涯を追う。


そこで知れるのは、満洲へ渡るということがいかなることであったか、ということであり
本土でなく辺土で文学にかかわるとはどういうことであったか、ということであり
全てを、地位も名誉も財産も若さも家族も、失った人間が、その後、どのように生きるか、
ということである。


とても面白い本なのでおすすめなのであるが、
個人的には、
もう少し「興味深い」細部、たとえば、
戦後も建築用にシベリア木材の需要が多かったので、ソ連との交易は結構あって、
長谷川はその通訳で食えた、
という点など、
日ソ貿易のデータや文献などあれば、よりよかったのにな、
という感想を抱いた。


というのも、もうそういうことは全く自明ではないし、
地図を載せているのはいいのだが、距離が載っていないなど
ちょっと食い足りない点が目立ったので。