歌集『親切な郷愁』(松木秀)

歌集『親切な郷愁』(松木秀)は先月いただきました。
ありがとうございました。


10首選(〇は1首選)


宇宙のそとにフェッセンデンを見つけたる宇宙学者がひたすら隠す
百万石と言えば聞こえはいいのだが十五万トンと言えば少なし
飛行機を折らなくなった少年は空の苦しみを知ったのである
誰も言わないがカダフィの死顔は間寛平にすこし似ていた
タイソンのパンチから亀田のパンチへと減衰したりコンビニのひかり
来週は雪らしい 冬やってきて私は白いこなぐすり飲む
〇「モキチキ」とするとコンビニで売っている物のような気のする茂吉の忌
火葬の風習ありて化石に残らざる恐竜もいた 絶対にいた
いまごろは福島第一原発にいるやも知れず公田耕一
メジロマックイーンの直系絶えたれどオルフェーブルにその血を残す

  • 「親切な郷愁」「2010年年末のうた」「デブでよろよろの太陽」「2012年後半雑吟」「ままならぬ」「V コーダ」が良かった。
  • 大量の固有名詞を用い、時事や時代の雰囲気を、シニカルな解釈で短歌のかたちで再現する。しかし、率直にいって、打率はあまりよろしくない。
  • 当たり、と私が思った歌には、たとえば「コンビニ」の歌が多い。なぜそうなるのか、と思うに、コンビニは松木を叙情させるのだろう、と判断する。コンビニは現在の象徴であり、さらに「血肉」を備えた存在だからである。そのとき、歌には錘が付き、北海道の分厚い雪原の中へ沈みこんでゆく。
  • 全体を通すと、芸人がひとりで「ツッコミ」をし続けているような印象をもった。「ボケ」の相方は「時代」だ。ダークな笑いをとりにいっているのか、それとも悲嘆なのか。舞台でライトアップされた彼は真剣で滑稽である。読後感は深い。