『脊梁山脈』(乙川優三郎)

脊梁山脈

脊梁山脈


『脊梁山脈』は小説。傑作。
舞台は敗戦後すぐの日本。
主人公は復員列車のなかである元兵士と親しくなり、木製の薬箱をもらう。
戦争と敗戦で青春を無くした主人公は、
人生の意味を探すようになり、運よく生活が落ち着くと、
元兵士に再開したくなり、薬箱を手がかりに、木地師という存在を知る。
椀や盆を作りながら日本の山系を漂白してきた彼らの歴史に興味を覚えた主人公は、
木地師の歴史と作品を収めた図録を作成することに人生の目的をさだめる。
主人公の周囲には、空襲で零泊したが飲み屋を経営してたくましく生きる陽性の魅力をもつ画家の女と、
木地師の娘で温泉に芸者として売られた陰性の魅力をもつ音楽家の女が現れる。
復興し、活力に満ちるが、多くのものを振るい落としてゆく日本を背景に、
主人公の古代への幻想は天皇制成立の時点までさかのぼり、
女達との関わりも、抜き差しならないものになってゆく。


主人公の立ち位置や人間関係は、実にオーソドックスな『ノルウェイの森』だが、
書く人間が違うとここまで違うのか、と感嘆した。
フィリピンに主人公の弟が生きていると言い張り、戦犯名簿の取り寄せを願う老母など、
脇の人物造形も彫が深い。
お勧めです。