歌集『しづかに逆立ちをする』(花鳥佰)

歌集『しづかに逆立ちをする』(花鳥佰)をいただきました。
ありがとうございました。


十首選(○は一首選)


びんたくらはす弟が欲し「ねえちやん」と大声に泣くやうなのがいい
麦の穂をいたくこのみし汝(なれ)なればくちもとにおくその一本を
また弾くとはおもはざりしよヴァイオリン天袋よりしづかにおろす
○黒チャドルの女ら広場を埋めつくしそのただなかにきららめく井戸
ひとりきて「裸のマヤ」のまへだしぬけに口中ホワイトアスパラの味
わがまへにきみひざまづきどうしても脱げぬ長靴をひき剥がしたり
年とると化粧がすばやく崩れゆく 岸恵子簡明にいひけり
赤い水たたきこみをり青いのよりお肌むちむちする気がします
野放図なあをぞらが窓へ下りてきてシュプレヒコール「自分を捨てろ」
六月は来てやうやくに「かるい病気」わがそびらより剥がれおちたり

  • 第一歌集とのことであり、還暦を超えていらっしゃるとのことであるが、とてもそうは見えない。そういう書類上のスペックはあまり関係ない。
    • 筑紫歌壇賞的な歌柄ではない。精神が若いのだろう。
  • 教養がハイ・カルチャーのど真ん中、「良きもの」の古き伝統的な良さがあり、一方では、そこが類型的で物足りない部分ではある。物足りている歌はとてもいい。
  • 全体に陽気。挽歌連作もしっかりとあるのだが、湿っぽくないのが、私の好み。
  • 豊かな語彙、と、そこから展開する思考・発想に馬力があり、読んでいて飽きない。
  • 細かい助詞・助動詞にはあまり拘泥せず、字余りの多用をしているのは、雑という評価もおおらかという評価もできようが、ともかく、今年の第一歌集のなかでは出色の作品。