早川志織『クルミの中』(砂子屋書房)クルミの中―早川志織歌集作者: 早川志織出版社/メーカー: 砂子屋書房発売日: 2004/12メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る


いただいたのは、今年(2005年)に入ってすぐだったと記憶しています。
ありがとうございました。


10首選


通り雨ながれて青き脈は照るトチの若葉に我の手首に
オオアレチマツヨイグサの浜にきて額を月に照らしていたり
腹這いに目覚めた朝は床の上におどる埃のうごき見ている
楠の根に抱かれて眠る幼虫はこれから変わるからだを知らず
先端にひとさし指が触れるときアキノキリンソウ放電したり
ザクロの実なでれば子供が産まれるとお母さんに言われ撫でたるザクロ
「死んでいます」と医師の掲げる写真にはわたしの中の黒点ひとつ
いやいやと泣く子の中に尖りくる人間の芽を見ておりわれは
乳ばかり飲みて真白くなりし舌をわれに見せつつ赤子わらうも
ジュゴンの肉を食えばほのかに乳の香がすると読みつつ何やら疼く


植物・動物の固有名詞をしつこく読み込んだ歌も魅力的ですが、
技巧としてはある意味投げやりな歌にむしろ心惹かれました。