角川短歌11月号短歌 2006年 11月号 [雑誌]出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2006/10/25メディア: 雑誌購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (2件) を見る


今号は新人賞発表号でした。受賞は澤村斉美さんの『黙秘の庭』です*1。あらためて、おめでとうございます。同じサークル・結社に過ごした者として、たいへん誇らしく思います。


五首選


減りやすき体力とお金のまづお金身体検査のごとく記録す
ぢつと待つ倉庫の中の絵のやうに時の経過を待てといふ人
昼過ぎて木陰の椅子は泣くためにある きみは研究を続けよ
カレンダーに緑の鯉の泳ぐ月メーデーといふ文字がまだある
その声の笑ひつつかつ本気なる電話の父の「おう、がんばれや」


以下雑感。

  • 「高レベル」安定という印象。下手な歌なし。一方で「これ!」という代表歌を見つけにくい。
  • その中で、後半に置かれる「父三首」の印象が強い。父娘の関係性をこのように表現できる余裕が全体を大きく見せている。
  • 研究関連の歌が多いが、内容には踏み込まない。新人賞対策としては当然の手とはいえ、物足りない部分もある。今後どうするのかに興味あり。
  • とはいえ焦点は、思う様な研究生活が送れない、というところにあり、その情感の提示のやり方には文句はない。個人的には胸を衝かれたし、研究とは無縁の人にも伝わる部分は多いと判断する。
  • 「学生(研究)」「内省」「(恋愛感情の)抑制」「(世代としては珍しい)植物」などのキーワードで括られる特徴、あるいは表現上のある種の「ミニマリズム」は先行世代と似る点も見受けられる。これが大きなトレンドとして定着するのか、あるいは個人として今後どう展開させるのか、興味深いところです。


以上です。

*1:私は悪いタイトルだとは全く思いません