『うさぎの鼻のようで抱きたい』(山内頌子)ISBN:4860234146


十首選


大和物語百四十七段死ぬことはないだろうに、女
〆切は三つあった今日BOXにこもれば非常に感覚的な夕ぐれ
辞めてから「なあんだ」と納得できることでもないようだ薬価計算
とうがらしの辛さにうつむいてたんです私の将来どうしようかな
ぶらんこの座り心地を選ぶように喫茶店あるきわまりていたる
ほんとうに自信のなくなっていくかたち白雲にみな顎上げている
ひとり居を想像されて語られる身をもてメロンの皮うらがえす
夕暮れはいっしょにみたいでも夜になれば背中の眼がひらきだす
波のある感情の日々電話には「粛々」などと言いて笑いぬ
もらい物最後とおもいつつ食べる職場の和菓子愛媛のみかん


今月にいただきました。ありがとうございました。
山内さんは京大短歌の後輩で、とても才能のあるかたです。


以下、雑感。

  • 本歌集は二部に分かれており、それぞれ就職前・後に分かれる構成になっている。個人的には前半の歌に覚えがあり、懐かしい気持ちがした。
  • 特に第一部では、大胆な字余りや意図的な「幼い」言い回しが不思議なおおらかさを醸しだしている。
  • 第二部は相聞と職場詠が多くを占めるが、ふたつはフリクションの有無において極めて対照的。読んでいて興味深いのは「軋り」の強い後者のほうである。
  • その意味では、本作の教養小説的構成が甘く長い「幸せな結末」を強調するのは惜しい、という気すらする。


以上です。