『岡井隆と初期未来―若き歌人たちの肖像』(大辻隆弘)


岡井隆と初期未来

岡井隆と初期未来


送っていただき、ありがとうございました。大変面白く読みました。
以下、文体を変えて書評(というか推薦文?)。


本書は、短歌結社「アララギ」から戦後に分派するような形で結成された短歌結社「未来短歌会」について、
その結成初期における若者たちの群像を、現在同会の主宰である岡井隆を中心にして詳らかにしたものである。
基本的に短歌「結社」という存在は、関係のない/興味のない人々にとっては全く手がかりすらないもので、
その中で交わされる話題は必然的に秘教めいてくる。
現在有力な結社のひとつである「未来」についても、さらにその「初期」について語るということになると、
これは平たく言えば内輪話にすぎないという批判も当然可能だろう。


しかしながら、本書はそのような把握を超え、ある一般性を獲得しているように思われた。
それは、戦後すぐという疾風怒涛の時代を短歌という切り口から俯瞰すると同時に、
そのうちで生きた若者の精神史をまざまざとよみがえらせていることにある。
彼らの夢や蹉跌は現在の我々と相似でありながら遥かに過酷・苛烈であり、
古い資料にあたりまたいまだ存命のかつての若者たちに取材する著者が
どうしても文中に忍ばせざるをえない彼らと彼らの時代に対する「憧憬」「羨望」を、
読者もまた自分のものとして受け取らざるをえない。


私は短歌を作る者であるので、本書を現代短歌史における一エピソード以上のものとして面白く読んだが、
二つのバリア−「短歌」と「時代」−に購入を阻まれるだろう一般の読者にも推薦できる一冊である。
強烈なカルチャーショック体験−ある意味快い−を保証するものである。