鬼龍子(久々湊盈子)


鬼龍子―久々湊盈子歌集 (角川短歌叢書)

鬼龍子―久々湊盈子歌集 (角川短歌叢書)


十首選


自販機のなかに伊右衛門も若武者も眠らせて二ン月の雪は降り積む
光あまねき久高(くだか)の浜に拾いたる白サンゴ鶴のたまごのような
無念無想というにあらねど一時間水のみを見て二キロを泳ぐ
もらい錆ということもある故郷の風呂場に忘れきし安全剃刀
うちそともなき干物となりて浜風に真蛸千枚ひるがえる昼
悔しさに眠れぬという夜がなくなりてわが精神は堕落したりぬ
旧臘ふたり明けて三たりの弔いに行きし黒靴かぜに当ておく
郁子(むべ)、木通(あけび)、苦瓜、糸瓜、蔓ばかり伸びて今年の梅雨長っ尻
明王式天狗号という脱穀機農業祭の隅にはたらく
鼻のうえに一本角があるというはどんな気分か犀がゆまりす


年末にいただきました。ありがとうございました。
旧仮名の漢字で表記できないものがあります。
以下雑感。

  • 還暦前後の日々の歌。
  • 年齢的にはまだまだかと思われるのだが、死についての歌が多い。
  • 「赤かぶら」「梅まだ咲かず」などの一連が良かった。
  • 飲食の歌がよく目立ち、印象的。
  • 日本を憂える歌が多いが、残念ながら採れない。先日の「社会詠」のエントリを読んでもらえればわかっていただけるか。


以上です。