西行の肺(吉川宏志)


歌集 西行の肺  角川短歌叢書 (角川短歌叢書―塔21世紀叢書)

歌集 西行の肺 角川短歌叢書 (角川短歌叢書―塔21世紀叢書)


十首選


身ごもりし人の済ませし校正の厳しすぎる朱を元に戻しぬ
冬死にし人には冬がいつまでもつづくのだろう薮椿咲く
この島より原爆の火が見えしとぞたしかに見ゆる白き市(まち)見ゆ
ぼんやりと歩いていても帰り着く家 たなばたの笹が濡れてる
妻眠る家に帰れば味噲汁の冷えていたりき上澄みの照る
石版画(リトグラフ)ほどの暗さの雨が降る蝉の鳴かなくなりし林に
この島を出でざる生の一つならむ翅くずれつつ赤蜻蛉とぶ
夢のなか泣いていたのに眼の固い朝が来ており春のガラス戸
ふるさとはみなみにありて雪という名前の少女に会いしことなき
ほととぎす朝闇のなか啼きわたり眠りの弱き妻は身じろぐ


去年の秋ごろいただきました。ありがとうございました。

  • あいかわらずの吉川節で、○の歌ばかり。困る。
  • 死の歌が相変わらず多い。
  • 妹の歌がよいアクセントになっている。
  • 家族の歌が大分難しくなってきた模様。
  • 遅くなってすみませんでした。