若冲の鶏(歌川功)

ISBN:9784861981319


十首選


鉄塔の四股を突きさし田をわたる高圧線の低く哭く声
存えて老耄(ろうもう)の母電話にて生き過ぎたよと洩らす寂しさ
笛太鼓空から音の降りくれば大祖祖(おおおやおや)の夏雲の湧く
泥水に泛(うか)び冴えたる寒月をくしやくしやにして颪(おろし)逃げゆく
百歳で死ぬは不幸か幸せか年賀を辞する葉書きている
まためぐる夏は嫌いという妻が薄き果肉の枇杷ひとつもぐ
しずかなる林にひそむ碑(いしぶみ)にマッチ擦る歌立ちいたりけり
雪解けに鉄の面(も)ぬめり黒光る萩の花咲くマンホール蓋(ぶた)
生卵一個にたのむ漲(みなぎ)りのいかほどなるや饂飩(うどん)におとす
寝たきりの義父(ちち)にし会えばまた遥かノモンハンから歩きはじめる


今冬にいただきました。ありがとうございました。
以下雑感。

  • 虫の歌が多い。
  • 生活の歌が少なく、むしろ避けているように思える。
    • 資金繰りに苦しむ歌は散見できるがインパクトは弱い。
  • ぼんやりとした印象で、エネルギーを感じないのはなぜか。
  • 観念的なうたが多いこともひとつの原因だと思う。もっと泥にまみれてよいはず。