『漂流巌流島』&歌集『初冬の光』(石本照子)
硬派歴史ミステリ四編。「漂流巌流島」「亡霊忠臣蔵」「慟哭新撰組」「彷徨鍵屋ノ辻」。いずれも”チャンバラ”に関わるものである。四編ともよい出来。特に、「慟哭新撰組」は学ぶところが多かったし、「彷徨鍵屋ノ辻」は四編の中で一番知名度の劣る事件にもかかわらず推理のキレは一番だった。胸を張ってお勧めできる掘り出しモノであった。
- 作者: 高井忍
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/08/11
- メディア: 文庫
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歌集『初冬の光』(石本照子)は先月初めにいただきました。
ありがとうございました。
十首選
古賀さんの庭の柘榴はさまざまにうたわれて来て今年も紅い
狭き道われにゆずりし朝の猫あじさいの蔭よりずっと見ている
坐る時寝る時布団は固い程足腰によろし手をつきて立つ
沈丁花に如月の陽のひそかなり挿木をくれし人病みている
社の軒に縁起詳細読み居れば啄みながらこげら近づく
かえでさ緑おのずからなる光あり雨の山門くぐれる先に
木や花の名のこと知らぬ人だった小さく紅く桂芽をふく
山城の原野なりしより凡そ二百年植物園のサイカチ倒れつ
壇上に立ちて短歌を話す人不意にまざまざと高安先生
反物を腕に架けすべらせたぐり寄せ商いいし義姉の美しき汗
以下雑感
- いい歌が多かった。端正な歌が多いが選んだのは破調が多くなってしまった。
- 「蹲りたる」は夫の死を描いた一連で、抑えた表現に心うたれた
- 良くも悪くも作風は「塔」の色をしている