歌集『あの日の海』(染野太朗)
歌集『あの日の海』(染野太朗)は先週いただきました。
ありがとうございました。
十首選
値踏みする母たち ぼくは黒板に連翹の花の写真を貼った
勝ち負けにこだわるぼくの背後にて建設中の高層マンション
そんな歌じゃ野次馬たちのケータイに勝てないねえと低き声する
校庭の体育教師の怒鳴り声に笑えり 他に行き場所がない
健全な組織なんだな校長への不満を酒に溶く人もいて
桃色の布団に妻は尾の切れた蜥蜴のようだ伏して泣きおり
染野さん鬱とかなんとか詠んじゃってだめだなあ小島一記が笑う
紫色(むらさき)のダウンジャケットをかけてやる昼寝の妻のくずれた胸に
校章に星はかがやき嘘つきの教師ばかりが酒呑みにゆく
納豆の薬味を選ぶようにして生徒を叱る今日は本気で
以下雑感
- 跋文や後書はなく、略歴も最低限しか記していない。
- 「胡麻塩」「秋葉原無差別殺傷事件」「抱卵」の一連がよかった。
- 教師の歌と鬱の歌が特徴。かなり奇妙な直喩でも意味を失うことはないような作り。
- 社会詠にしても鬱の歌にしても、わかりすぎるところがあって、機会を捉えた水準以上のものが出ているかというと、残念ながらやや弱いと思う*1。
*1:このあたり私は点が辛いので申し訳ないですが