歌集『一匙の海』(柳澤美晴)

歌集『一匙の海』(柳澤美晴)は今日いただきました。
ありがとうございました。


十首選

前髪の触れ合わぬ距離にきみはいて無菌操作のあやうさを言う
生卵るいるい飲み干す父親を水たまりのごとく避けて暮らせり
膝頭さやさや見せて逢いにゆく日は薄羽のスカートを履く
昆布漁する生徒らにアルバイト届を書かす初夏の教室
明け方に穂村弘の亜流来てぬたぬた冷めたうどんをすする
二十年後に三千人消えるという予測降り積む海辺の町に
傷跡を誇るポプラはないだろう驟雨の後を道鮮(あたら)しき
メール無精を責めるメールをうつときの言語野に雪ああ降りしきる
あばら骨見えるビル街 国家にも痩身願望あるのだろうか
前略と書き出す手紙 略すのは主に恋愛のことです父よ


以下雑感

  • 「風の灯台」「夢の缶詰」「散文に手錠」「血脈」の一連が良かった。
  • 名詞重視で、全体的に歌がごつごつしている。最近の新人賞・第一歌集では珍しいタイプ。
  • それが、相聞になると歌にやわらかみが入り、柄が変わる。ややツンデレ気味だが、基本一途な相聞。
    • 歌的には「古い」のだろうが、別に古くてもかまわない。
  • ブランキージェットシティ、の一連があって、目をひいた。懐かしい。アルバム持っていたな、などと感傷。
  • 歌は相聞がもちろん良いのだが、たぶん、本質はそこにはない。自己を掘り進めるときに、思春期のただなかにいる生徒の目を借りて、自己客観視しているのは、危うい。熱量がそこで落ちている点を危惧する。


以上。