歌集『雲鳥』(田中拓也)
歌集『雲鳥』は昨日いただきました。
ありがとうございました。
十首選
うっすらと闇を抱えし樹間より樹間に消えし銀の蜻蛉
車窓より霞ヶ浦の蓮田見え風車見え駅舎見え我が見えたり
大観が幼心に見上げたる青き空なり水戸の空なり
身を穿つ言の葉一つ沈めたる心の沼にまた冬が来る
千本の傘はまあるく開きたり山の斜面に春の雨降る
缶切りの刃はみっしりと沈みたり銀の言葉を一つ零して
覚め際の夢に賢治が現れて「ユウカン」と言い消えてゆきたり
甘土に心の鳥は舞い降りて赤きミミズを啄みにけり
真夜中にあなたの肩を抱き寄せるずしりずしりと団栗が降る
「私、体育会系ですから」とスクワット始める教師おりたり
以下、雑感。
- 「雲鳥」「土」の一連がよかった。
- 雲の歌が多い。
- 相手の定まらぬ、神道的な「あなた」なども多い。
- 「父」とのドラマもあるが、深入りせず、流している。
- 語彙が少なく、定型にしっかりと沿い、しかしながら淡い歌が多い。
- VI部の3.11の歌群は、歌集として収録されたものとしては、おそらく最も早い部類に入る。
- 被災にまつわる臨場感は高い、が一般的な震災詠を越えるものは少なく、ほぼ採れない。
- ガスの臭い、便の溢れる便器からの臭い、など身体性を浮かび上がらせる「兆し」は見えるが、やはり淡い。
以上です。