追悼


ときどきは呼吸のようなことをしてアクエリアスを飲むのもいいね(笹井宏之)


彼の歌は像が焦点を結ばぬように意識をむける奇妙な作りの歌が多いように感じ、
しかしながらそれは本人世界ではある程度の完結を伴っているのだと説得されると
このご時世ではあまり強く言うこともできずに仕方なくただ受け入れるといった塩梅であった。
ただ、かぼそいながらも「リンク可能」な歌に出会うとそれはそれなりの強度は生まれるもので、
もちろんその「繋がる幸福」は笹井の場合に特徴的な話ではないのだが、
その場合は鑑賞に味わいが出ることもよくある話であろう。


引用したのは個人的にはそうした一首。
おそらくはペットボトルでアクエリアスを飲んでいるのであろう。
こぽこぽと肺から出た空気が、さかさにしたボトルの底に静かにたまる。
「呼吸のようなこと」とはそういう情景をさしているのだろうと私は想像し(ここで解釈は分かれるだろうが)、
その風景にある静謐さプラス全体の音韻(やや下句が甘いか)で採れる歌だと思ったのであった。


哀悼の意を表します。